「いかがされました、秀秋さま」
「ちょっと来てくれ」
 庭で散歩がてら哨戒を行っていたは、障子越しに聞こえる主の声に従い、草鞋を脱 いで「失礼しますと」声を掛けながら障子を開いた。
「!…っきゃ」
 障子を開き、膝でにじり入ろうとした所を、頭から何かで押さえつけられた。それほど 強い力ではないが、体を覆う柔らかい感触に、は思考を刹那奪われる。
「なにやつ…」
、気持ちいいだろう」
 耳のすぐ横で声がする。秀秋の声だ。は首を左右に振ってかの人を探すが、頭から すっぽりと被せられた白いもののせいで、何も見えない。
「ひ、秀秋さま、これは」
「布団だ。干してあったものを先ほど取り入れたばかりでな」
「は?」
 は被せられたものを良く見てみる。言われてみれば、この重み、柔らかさは確かに 布団である。しかも、ほのかに温かく、日の匂いがする。
「日の光を沢山受けているからな。いい匂いがする」
 布団越しにぎゅうと抱きしめられて、は思わずあっと声を出す。秀秋は気にもせず に何度か布団に頬ずりすると、端をめくって勢いよく入ってきた。
「うん。中の方が温かくて良いな」
「秀秋さま」
「どうした?」
 目が合うと、秀秋は嬉しそうに笑った。一人用の布団を二人でかぶり少し狭かったが、 くっ付いていれば温かさも匂いも強く感じられて心地よい。
「なぜ、このようなことを」
 の言葉に、秀秋は表情を曇らせる。非難されてると思っているのだろうか。
「怒っているのか」
「いいえ」
「そうか」
「はい。ただ、その…」
「どうした、。そんな顔をするな。私が困るではないか」
 俯き加減で目をあわそうとしないに、秀秋はおろおろと困ったように声を掛ける。
「その、秀秋さまの手が」
「手?」
 秀秋は首を左右に振る。
「これか?」
 勢いよく入ったときに、思わず押さえつけてしまったのだろう。秀秋の手が、の手 をしっかり押さえつけていた。は恥ずかしそうに俯いている。
「戦場では手など繋ぎっぱなしではないか」
「つ、繋ぎっぱなしではございませぬ!」
「なんだ、嫌なのか」
「そうではございませぬが…その」
 の恥ずかしがり様を見て、秀秋は笑った。いつもは冷静で、自分よりもよっぽど勇 猛なが、自分に手を握られただけで真っ赤になっているのが可愛くて仕様が無い。
!」
「は、はいっ…っきゃあ!」
 今度は布団越しではなく、直にを抱きすくめる。
「温かい。それに良い匂いがするな」
「は、はい。お布団が、とても」
「ちがうぞ」
 秀秋は悪戯っぽく微笑んで、を見つめた。
「おまえのだ」