「では、防御プログラムの更新を頼んだぞ。」
破壊大帝にそう命じられ、びしっと敬礼を返しながらはいと答えたのは、最近セイバートロン星から地球に
移って来た女性型デストロンのだった。
「早速取り掛かります」
がそう言い残してメインルームを後にするのを、スタースクリームはじっと見つめていた。
彼女はレーザーウェーブの腹心で、スタースクリームが嫌う、いわゆる忠臣であった。セイバートロン星
でも反りは全く合わなかったが、スタースクリームはが嫌いではなかった。
その理由は二つ。
一つは、がスタースクリームの実力を認めていること。メガトロンに対する反逆はにしてみれ
ば理解不能なのだが、スタースクリームの火力と口の巧さに関しては、認めざるを得ない部分があると思われ
ているらしい。
そして二つ目は、姿が美しいこと。それだけだった。
部屋から出ていったを追い掛けようとして、スタースクリームが足を動かすと、主がぎろりと赤い目
を彼に向けた。
「スタースクリーム。の邪魔はするなよ」
スタースクリームは振り返り、唇を思い切り歪めた。
「そんなことしませんよ」
「貴様ならやりかねん」
メガトロンはそう言うと、スタースクリームの反論には耳を貸さず、手を振って彼を部屋から追い出した。
「あの老いぼれめ」
スタースクリームは悪態を付きながら、のいるコントロールルームに足を進めた。
***
「」
パネルの上を、の細い指が滑る。スタースクリームは彼女の横顔を見つめながら、仕事に夢中になっ
ているその肩に馴々しく触れた。
「!…スタースクリーム。何か御用ですか」
はいたく驚いた様子で彼を見上げる。スタースクリームは、そう答えるなりすぐに作業を再開した
の腕を、急に掴みあげた。
「何をするんですか。私は仕事中なんです。あなたと遊んでいる間はないんですよ」
遊び相手なら他を当たってください、とがすげなく答えると、スタースクリームは不機嫌そうに
唇を曲げた。
「つれねえな。そんなつまんねぇプログラムの更新なんか後にしろよ」
「何を言ってるんですか。これは防御プログラムのバグを修正する大切な作業です」
くるりとスタースクリームの方を振り向いたは、作業の手を止めて、彼をぎろりと睨んだ。
ようやく彼女が自分を見たことに満足したスタースクリームは、にやりと笑って彼女の両腕を掴み、力任せ
に体を反転させて、彼女をパネルの上に組み敷いた。エラーを示すにぎやかなサウンドが鳴り響く。
一瞬の出来事にが付いていけずにいると、スタースクリームは彼女にのしかかり、デストロンにして
は可愛らしすぎる赤いアイセンサーを見つめた。そして、片手で彼女の両腕を頭の上で押さえつけ、もう片方
の手で、優美なラインを描く頬を撫でた。すると、面白いくらいにはびくりと反応して顔を背けた。
「スタースクリーム!な、何のつもりですかッ」
彼の行動が理解できないは、情報処理が上手くできないのか、上ずった音声を発した。
「あんな老いぼれの命令なんかほっとけ。おれと遊ぶ方がよっぽど楽しいぜ」
主に似てくそ真面目なこのデストロンは、予想通りこういったことには疎いらしかった。
スタースクリームはアイセンサーを細めてにんまり笑うと、戸惑うの顎を捉えて鋼鉄の唇をぐっと
近づけ「こっち方面はご存知ないのかい、お嬢さん」と囁いた。
「レーザーウェーブはこんなことしねえよなあ」
「……ぜ、絶対にしません!」
至近距離で思い切り叫ばれて、スタースクリームが少し体を離すと、はすかさず彼の下からすり抜けようと
する。しかし、スタースクリームが彼女を拘束している手に力を込め直すと、逃げることはおろか身動きも取れなく
なってしまった。思い切り反抗してもいいのだが、あまり暴れるとこれまでの作業が無駄になってしまう。
「ずいぶん嫌われたもんだ。そう邪険にするなよ、仲良くしようぜ」
「結構です!それにスタースクリーム、先の言葉は無礼が過ぎますよ」
「無礼?」
「メガトロン様に対するあなたの言動は、目に余るものが多すぎます」
スタースクリームはにやにやと笑いながら、指を首筋に滑らせる。はぶるりと震え、すぐにじたばた
と体を揺さ振って反抗するが、スタースクリームの力に勝てるはずもなく、体を仰け反らせるだけに終わった。
「そうそう。それぐらい元気がないとやりがいがないぜ」
自分の下にあるのボディをまじまじと見つめながら、スタースクリームはどうしてやろうかと思案する。
嫌われているついでに、無理やり言う事を聞かせるのもいいが、じわじわと責め立てて、彼女の方から折れさせ
るのも一興だ。
「すぐに俺がリーダーになるんだ。問題ねえだろ?」
「たとえ何かの間違いであなたがリーダーになったとしても、デストロン軍団を纏め上げられるとは到底思えません」
「言ってくれるじゃねえか」
顔は笑ってはいるが、の侮辱を容認できるほどスタースクリームはお人よしではなかった。
ぎりりと歯軋りをして、彼女の首を締め上げる。膨大なケーブルが収納されている頸部を容赦なく圧迫され、
はブレインサーキットに流れ込んでくるエラーの嵐に喘いだ。
「あ、…っ!」
でたらめに手足を動かして苦しむに、スタースクリームは怒りを静めた。なにも彼女を壊しに来たのではない。
できれば仲良く―――といえば聞こえはよいが―――したいのだ。それも、自分に有利な条件で。
「まァ、今のは聞かなかったことにしてやるよ。俺はおまえと仲良くしたいって言ったろ?」
首を絞める手を緩めて、スタースクリームは再びに顔を近づけて囁く。
「これの、どこが仲良くですかッ」
「レーザーウェーブの部下なんか辞めて、俺のモンになれよ」
の言葉には耳を貸さず、スタースクリームは勝手なことを言った。は呆気に取られてしまい、反抗するのも
忘れて、彼のアイセンサーをじっと見つめた。
「正気ですか?」
「正気だとも。もう一回言ってやろうか」
「い、いえ、結構です。そんな言葉は一度で」
はエラーの嵐に圧し掛かる、新たな問題に頭を抱えた。昔から調子のいい勝手な男だとは思っていたが、まさか
そんなことを言い出すとは。おおかたレーザーウェーブに対する当て付けなのだろうが、それにしては悪趣味すぎる。
「私は誰のものでもありません」
「レーザーウェーブのものじゃなかったのか?」
「彼を貶めるようなことを言うのは止めてください。私は誰のものでもありません。もちろん、レーザーウェーブのものでも」
レーザーウェーブのことを引き合いに出された瞬間、のアイセンサーに強い光が宿った。よほど彼を信頼しているの
だろう。スタースクリームはいらいらして、力任せにの唇に自分のそれを押し付けた。
はこれ以上無いくらいの力を振り絞ってばたばたと体を揺さぶった。しかしスタースクリームも負けじと彼女を抑え
付ける。力の差は歴然であったが、これ以上組み敷いていられるかどうかは時間の問題だった。このまま唇を重ねていても、
絡ませた舌を噛み切られるかもしれなかったのだ。
「ちッ」
「ッは、離してください!」
今度ばかりはこれまでの作業のことなど構ってはいられなかった。は肩に装着されたミサイルをスタースクリームの
翼に打ち込んだ。スタースクリームはあまりにも近い距離からの攻撃をかわし切れずにまともに喰らい、メインルームの
床に叩きつけられた。も反動でパネルにぶつかり、がしゃんと嫌な音が響いた。
「……まったく、どうしてくれるんですか。あなたの気まぐれのせいで私の仕事は台無しです」
スタースクリームと距離をとりながら、は大きく肩を落とした。これではプログラムの更新どころか、パネルの修理
から行わなくてはならない。
「俺はまだ諦めちゃいねえ」
体を起こして、なおも向かってくるスタースクリームに、は恐怖を覚えて逃げ出す。何が彼をそんなにまで掻きたてる
のだろうか?
(レーザーウェーブに対する当て付けにしては執拗すぎる)
前を見ずにメインルームから出ると、は思い切り誰かにぶつかった。よろめいて倒れそうになったが、ぶつかった相手
に腕を掴まれて、床と仲良くしないですんだ。
「メインルームで銃声がしたと思ったら…こりゃどういうことだ?」
「スカイワープ!」
「スタースクリーム、何やってんだよ」
「うるせぇ!をよこしてとっとと失せろ!」
の肩を抱いて、庇うように立っているスカイワープに銃口を向け、スタースクリームは喚いた。
「そりゃあ、できねぇ相談だな」
激昂するスタースクリームをにやにやと見つめながら、スカイワープはを引き寄せた。
「ス、スカイワープ」
「なんでぃ」
「助けて頂けるのはありがたいんですが、その、手は…」
はスタースクリームよろしく、馴々しく体に触れてくるスカイワープの手をコツコツ叩く。なぜこの人たちはこんな
に距離を詰めてくるのだろうか?
「あぁ?まぁ気にすんなよ。コイツを追っ払ったら、仕事を手伝ってやるからよ」
「それとこれとは全く繋がらないんですが」
「俺ん中じゃ繋がってる……っ!スタースクリーム!基地内でポンポン撃って来んな!」
「黙れ!馴々しく触ってんじゃねぇよ!離れろ!」
「あ、あなただってしてたでしょう!」
が思わず言い返すと、スタースクリームは至極真面目な顔で「俺が俺のモノに触れて、何が悪い」とのたまった。
は頭を抱えた。一体いつから自分は彼のモノになったのだろうか、と。
「ですから、私は誰のモノでもありませんと先から言ってるでしょう!」
「へぇ、俺ァてっきりレーザーウェーブのコレかと思ってたが、違うのか」
スカイワープがずいと顔を近付けて、そう問えば、はイライラしながら、無言でスカイワープの足を思い切り踏み
付けた。
その隙にひらりとスカイワープの腕から逃げる。
「ぎゃっ!な、何しやがんでぃ!人が折角助けてやろうと」
「そんな事を言う方に助けて頂きたくありません」
「レーザーウェーブのことかよ」
イライラしながらそう言ったのは、スカイワープではなく、スタースクリームだった。はじりじりと近づいてくる<
彼らと距離を取ろうと、後ろに下がった。
「そうです。彼と私はそんな関係ではありません。私はともかく、レーザーウェーブに失礼です。撤回してください」
「お熱いこって」
「スカイワープ!」
「まぁ、そんなにいきり立つなよ。レーザーウェーブのモノじゃなくて一安心だ。なぁ、スタースクリーム」
距離を詰めてくるスタースクリームとスカイワープは、ちらりと視線を交錯させると、唇を吊り上げた。
「な、何ですか。二人して」
「なに、少し協力するだけさ。一緒に仲良くするためにな」
「そうそう。利害の一致ってヤツだよ」
「あ、あなたたち、こんな事をしてどうなるか」
廊下までじりじりと下がり、逃げる態勢を整え始めたに、二人は笑みを讃えて近づく。
「さぁ、どうなるだろうな」
「想像もつかねえな」
「…………」
二人を睨み付けていたが、急にくるりと反転し、廊下を駆け出した。スタースクリームとスカイワープもそれに倣い、
彼女を追い掛ける。
「っあ!撃つな!基地内ですよ!?」
スタースクリームの放ったレーザーが、の足を掠めて壁に穴を作る。
「次は当てるからな!」
(こっちの話なんか聞いてもいないんだから!)
は苦々しく、くそっ、と吐き捨てる。自分はこんな事をするために、セイバートロン星から来たのではない。
「お、おいスタースクリーム!」
急にスカイワープが情けない声を出したので、は首だけで後ろを振り返った。しかし、何もない。
「っつ!いい加減にしてくだ」
スタースクリームのレーザーが、今度は足に直撃して、はよろめきながら走った。いや、走ろうとした。
「!?」
するとガツン、と思い切り固いものにぶつかった。今日は何でこんなについてないんだろう。
「大丈夫カ」
聞きなれたサウンドに、は弾かれたように顔を上げた。
「サウンドウェーブ!」
「おい、サウンドウェーブ!をよこしやがれ!」
「断ル」
の前に立ち、サウンドウェーブは胸元からカセットロンを呼び出した。
「やい!をいじめんのも大概にしろよな!」
「そうだそうだ!レーザーウェーブに嫉妬しやがって、カッコ悪ぃ」
「あンだと、このチビども!」
「けッ!この木偶の坊が!」
「おい、スカイワープ!…?…ちくしょう!アイツ逃げやがったな!」
「どーすんだよ、スタースクリーム?」
カセットロンに嘲られ、スタースクリームは歯軋りしながら、トランスフォームした。
「覚えてやがれ!」
「おととい来やがれ!」
スタースクリームの姿がすっかり見えなくなると、は深い溜息をついた。
「やっと撒いた……」
ががっくり肩を落として呟くと、サウンドウェーブがポンポンとその肩を叩いた。
「何モ無カッタカ」
「え、ええ。何もありませんでした。全て未遂で終わりました」
「ソウカ」
「ありがとうごさいます。サウンドウェーブ。それにカセットロンのみんな」
「へへっ。どういたしまして」
「気二スルナ。俺ハ約束ヲ守ッタダケダ」
「約束?」
は表情の読めない、情報参謀の横顔を見つめた。赤いバイザーがこちらを見たような気がしたが、すぐに彼は視線を
逸らしたようだった。
「何デモ無イ」
「?…そうですか」
「ソレヨリ、、仕事ハ」
「あ、そうですね。まずパネルの修理からやらないと」
「よしきた!じゃあ、早くやっちまおうぜ!」
フレンジーとランブルが、の両腕を引いて歩きだす。
「え?」
「一人でやるより、ずっと早いぜ!」
「で、ですが」
「気にすんなって!そうだろ?サウンドウェーブ」
カセットロンがそう促すと。サウンドウェーブはやれやれといった様子で「好キニシロ」と答えるに留まった。
「よし!じゃあ出発ー!」
***
「あら?パネルが」
コントロールルームに戻ったは、体を押し付けられて割れてしまったパネルが修復されているのに気が付いた。
「こんな短時間で誰がやったんでしょうか」
「俺だよ」
部屋の奥から姿を現したのは、青いジェットロンだった。
「サンダークラッカー」
ひらひら手を振って近づく彼に、は警戒心をむき出しにした。
「それ以上近づかないでください」
「俺、なんかしたか?」
困惑してアイセンサーを細め、頬を掻く姿に、は何となく申し訳ない気分になった。しかし、彼も先の二人と同型で、
同じチームだ。油断はならない。
「いえ、あなたは何もしてませんが…お仲間のことで」
「俺はあの二人とはちょっと違うんだが」
仕方ねぇなあいつらは、と呟いたサンダークラッカーに、は苦笑を一つ洩らした。きっと彼はスタースクリームやスカイワープ
がどんなことをしたって、こうして頬を掻いてそう呟くのだろう。サンダークラッカーというデストロンは、非情になりきれないという
か、どこか飄々とした雰囲気を持つ男だった。そういう意味では、確かにサンダークラッカーはスタースクリームやスカイワープとは
少し違う気質を持っている。そして、それはにとって嫌悪すべき性質ではなかった。
「ごめんなさい。これを治してくれたのはあなたなんですね」
「ああ。お前が作業してるって聞いたから、何か手伝おうかと思ってな」
来てみたらこのざまさ、とサンダークラッカーはとカセットロンを見比べて、微笑んだ。
「あなたのお友達は遊び相手が欲しいみたいですよ」
「いや、そうじゃない」
「?」
やいのやいのと騒いでいたカセットロンを無視して、サンダークラッカーはに近づいた。彼女は咄嗟に身構えたが、サンダークラッ
カーは少し距離を縮めただけで、それ以上近づいては来なかった。
「あいつらは…いや、スタースクリームはお前が気になってるんだよ」
「それは…何となく察していましたが…私がレーザーウェーブの部下だからでしょう?」
「それも、ある」
言うなり背を向けて、パネル修理を再開し始めたサンダークラッカーに、は疑問符を飛ばしながら「他にも?」と問うた。
「分からなきゃ別にいいんだよ」
「気になります」
サンダークラッカーの翼から顔を覗かせて、は彼の横顔を見つめた。とても近い距離にの顔があって、サンダークラッカーは
ぴくんと翼を震わせた。
「ち、近い」
「?…何がです」
大きなアイセンサーに自分が写っている。サンダークラッカーは彼女の瞳や唇を見つめていると、吸い込まれて己のそれと重ねてしまいそう
になった。互いの鼻先が触れ合ってようやく、はぱっと顔を離した。
「ご、ごめんなさい」
「お前って、やっぱり鈍感だな」
「な、なにを」
サンダークラッカーは頬を掻き掻き、困ったように呟いた。スタースクリームの言動には敏感なくせに、他にはてんでガードが甘いのだ。
「まあ、いいさ。せいぜい喰われないように注意しな」
「喰われる?」
はその言葉を検索して意味を理解しようとするが、どう考えても自分たちを捕食するような相手はインセクトロンぐらいのもの
だった。
「インセクトロンにですか?」
「いんや………さあ、パネルは治ったぜ」
話している間にもせわしなく手を動かしていたサンダークラッカーは、キレイに治ったパネルの前にを座らせた。
「あ、ありがとうございます」
「俺も手伝うから、更新プログラムを呼び出してくれ」
サンダークラッカーの手が肩に乗せられて、はびくりと体を揺らしたが、不思議と嫌悪感は無かった。
「いえ、パネルの修理だけで大助かりです。これ以上手伝ってもらうわけにはいきません」
「まあそう言うなよ。あの二人のお詫びと思ってさ」
は顔を上げてサンダークラッカーを見た。いたずらっぽく微笑む彼と視線が合って、どうにも居た堪れない気持ちになる。
同じジェットロンなのに、彼はこんなにも違う。スタースクリームやスカイワープは多少乱暴なところもあるが、とても分かり易い部類の
デストロンだ。先ほどまでの狼藉は許しがたいものがあるが、ある意味予想を裏切らない展開であるし、対処のしようもある。自分の態度に
落ち度もあったのだろう。
しかし、サンダークラッカーはすこし違っている。
「いえ、あの、でも…」
「じゃあ、今度何かお返ししてくれよ」
「お返し?」
「ああ。俺の仕事を手伝ってくれてもいいし、それ以外でもいい」
そこまで言われては無下には断れない。は少しばかり思案して「わかりました」と笑った。
「あなたもなかなか強情ですね」
「そうか?あの二人よりはマシだと思うがな」
「そうですね」
くすくすと笑いあって、は指を動かし始めた。サンダークラッカーがケーブルを取り出して、コンソールにあるアウトレットに
繋ぐ。青白い光を放つモニターを二人はじっと見つめていた。
「サンダークラッカー」
「うん?」
「お返しは何がいいのですか」
「俺の希望を聞いてくれるのか?」
「聞くだけなら」
「そうかい」
考え込んだサンダークラッカーに、はかすかな期待を寄せる。彼ならなんと言うだろうか。
「そうだな…今度一緒に探索に出るのでもいいし…」
「探索、ですか」
「ああ、洞窟にエネルギー反応があってな。調べたいんだが一人ではどうにもならなくて」
「それはいいですね」
「いや、待ってくれ。それでもいいんだが…」
「だが?」
「………」
サンダークラッカーはの顔をジッと見つめて、口を閉ざした。
「なんですか?」
「いや、やっぱり止めとく。俺は違うからな」
「?…なんです、気になります」
「いや、聞かない方がいい」
は珍しく弱気な彼にずいと体を近づけて、何なんですかと言いながら彼の手を掴んだ。サンダークラッカーはあわあわと翼を動かし
て、いいから、と彼女の腕をのけようとする。
「言ってください。叶えるかどうかは私が決めます」
「わかった、わかったから体を…その、俺はいいんだが…」
ぎゅうと体を押し付けるように迫っていたは、むっとした顔で彼から離れた。
「も、もう少し早く言ってください。あなたが早く言わないから、こんなに近くに…」
言いながらはブレインサーキットが唸る音を聞いた。どうも調子が狂ってしまう。
「で、何なんですか」
「その、あのだな」
「はい」
「い、一日でいいから」
「はい」
「俺の」
「おれの」
はいらいらしながらサンダークラッカーの言葉を待った。俺の、なんなのだ。
「俺の傍にいてくれ…」
「へ?」
の呆気に取られた顔を見て、サンダークラッカーは大急ぎでケーブルを引っこ抜いた。
「あっ!サンダークラッカー!まだ終わってません!」
「いい!やっぱお返しなんかいい!」
そそくさと逃げ出そうとする彼の翼を掴み損ねて、はその背中に言い放った。
「い、一日ならいいです!」
そおっと振り返ったサンダークラッカーの顔を見て、はにっこりと微笑んだ。
「でも、あの二人には内緒ですよ」
***後書き***
伽羅様のリクエストで、旧ジェットロン三羽……でした!
でも、でも、スタスクが相変わらずのポジションで、スカワが残念(泣)で、美味しいところをサンクラが持ってってしまいました><
三羽でほのぼのとか、考えたんですが…これしか思いつきませんでした。甘くなりませんで申し訳ありません。
ご笑納くだされば幸いです><
敬語ヒロインは書いてて楽しいです^^;
いじめがいがある(笑)