(07:どろどろの続きです^^)

05:ふわふわ

 もわもわと立ち上がる湯気と足元のタイルを覆う白い泡。三体のトランスフォーマーが入ってもまだ十分なスペースが余っているこの部屋に、アイアンハイド達はいた。

「アイアンハイド!サンドストーム!見て見て、すっごい泡だよー!」

 泥まみれの体をキレイにするために、洗剤を泡立てていたは両手に白い泡をてんこもりにして二人を呼んだ。ごしごしと真面目に体を洗っていたアイアンハイドはチラリと彼女を見てため息を漏らす。ときたら、泡を立てるのに夢中になって少しも体を洗っていないのだ。時間が立てば経つほど、泥は取れにくくなるというのに。

「!泡で遊ぶんじゃない!さっさと洗え!」

 ごしごし手を動かしながら怒鳴ったアイアンハイドを見て、はあー!と声を上げる。

「アイアンハイド!洗いっこしようって言ったのに勝手に洗ってる!」
「お前がちんたら泡立ててるからだ!」
「泡立てるの手伝ってくれればよかったのに!」

 ねえサンドストーム、とがすぐ後ろに居た彼に声を掛けると、よろしく両手に泡を持ったサンドストームがくるりと振り返ってアイアンハイドを見た。

「おーおー、折角準備したってのによォ」
「泥ついてないー!!」
「キレイさっぱり流したわ!お前らも早く洗え!」

 こびりついたら取れんぞ、とアイアンハイドは汚れを洗い流しながらこぼした。とサンドストームは不満そうな顔を彼に向けた後、互いに顔を見合わせてニッと笑った。

「じゃあサンドストーム、二人でしよ!」
「そうだな。じゃあ早速」

 けたけたとサンドストームの笑い声が狭い空間にこだましたと思うと、ワンテンポ遅れての悲鳴が聞こえた。アイアンハイドがびっくりして振り返ると、サンドストームに押し倒されるような格好で床に寝そべっているが見えた。泡の付いた手で彼女の体を撫で回すサンドストームは、いつも通りヒヒヒとご機嫌そうに笑っている。

「な、お、お前たちっ」
「きゃんっ!わ、も、くすぐったいよォ!きゃはは!だめ、だめだってば!」
「ホレホレ、おめぇこんなトコにも付いてんじゃねェか」

 首や腹はもちろん、サンドストームの手は腰や胸にも這わされている。腰の辺りから腕の付け根へずるりと滑らされた手にはきゃーきゃー笑いながら体を大きく震わせる。じたばたと彼の体にも泡をつけてやろうと動くのだが、しっかり圧し掛かられているのであまり効果がない。どう見ても襲っているようにしか見えないその構図にアイアンハイドはしばし硬直していたが、気を取り直してずかずかと二人に近寄った。

「やっ!も、もうっ、あッ、だめだよォ!し、しかえし、してッ」

 やるんだからァ、と元気の良い声がふにゃふにゃと崩れていくのを聞いて、サンドストームは唇を吊り上げた。ふわふわの泡を掬い取り、膝から足の付け根へ向かって手を滑らせた。ひゃん、だかきゅん、だかから情けない声が漏れる。

「おい、洗いっこだろ?俺も洗ってくれよォ」

 押さえつけていたを起こして膝に跨らせると、サンドストームは脱力しきっている彼女の鼻をちょんと突いた。何度かアイセンサーがちかちか明滅すると、は「あ、うんゴメン!」と少しだけ勢いを取り戻した声で答えた。

「よーし、じゃあ仕返ししてやるんだから!」

 泡を盛大に掬い取って、がサンドストームを撫で回す。胸から腹へ、首筋から腕の付け根へ、わき腹から足へ…ずるずると泡を滑らせていくのに、サンドストームは全く声を上げない。がおやと思って顔を彼に向けると、悪戯っぽく微笑んでいるサンドストームと視線があった。むっと頬を膨らませて抗議の声を上げる。

「くすぐったくないの?」
「全然」
「えー!なんでェ?これは?ねえ、コッチは?」

 せわしなく手を動かすが、サンドストームはにやにや笑ったままだった。

「つまんないよォ」

 サンドストームの膝の上で跨ったまま、手を使ってずるりと体を動かしたに、彼は小さくヒっと笑った。

「あ!いま笑った!」
「そうかァ?」
「笑った笑った!サンドストームは手じゃなくてこっちの方がいいのかな?」

 彼の膝を挟むように両脚を閉じたは、腕を使ってずるずると体を擦り付ける。足の付け根までずいと腰を進ませたはサンドストームを見上げる。ニヤリと笑う赤いアイセンサーがサンドストームを見つめてきた。悪戯が成功したようなその笑みに、サンドストームはヒヒヒと笑って彼女を抱え上げた。

「お前の体はツルツルしてるなァ」

 両膝の間に掴んだを置いてサンドストームは頬に付いた泡を拭ってやった。くすぐったそうにが顔を背ける。細かい泡が体の一部を隠すようにくっ付いて、ずるずると泡がしたたり落ちるのはなんとも言えない光景だった。

「あ、サンドストーム、ココにも泥付いてるよ」

 が指し示したのはサンドストームの足と胴体を繋いでいるジョイントだった。奥のほうまで細かい泥の飛沫がこびりついていて、指でも突っ込まない限り取れそうにない。が膝の裏から足の付け根を泡の付いた手でそっと撫で上げると、サンドストームは小さく呻いてから、それを誤魔化すように「優しくしてくれよなァ」とふざけた。

「だって、ここ取りにくいんだもん。もうちょっと奥まで…」

 座り込んだの頭が自分の足の間でもぞもぞと動いているのを見て、サンドストームはその頭を押さえつけそうになるのを何とか抑えた。今なら無理やり事に及んだって、きっとはふざけたまま受け入れてくれるだろう。遊びと勘違いして。しかし、がしゃがしゃと近づいてくる仲間の足音に阻まれて、の頭を撫でるに留まった。

「ん?」

 撫でられた感触についと顔を上げた無邪気なの表情に、サンドストームはブレインサーキットがひどく興奮するのを覚えた。

「お、ま、え、た、ちッ!」

 ずる、がしゃん、と何度か泡に足を取られて転びながら進んできたアイアンハイドは、目の前の光景が先ほどと違っていて仰天した。なんと、がサンドストームの足の間にひざまずいて、何やら弄くりまわしているではないか。どう見てもアレな光景に、アイアンハイドはどこかのジョイントが外れる音を聞いた。

「さ、さ、サンドっ」
「あ、アイアンハイドもやっぱりやりたい?」
「ヒヒヒ、やりたきゃ後ろに行けよなァ」

 ヤりたいかだとか、後ろだとか、とんでもない言葉がブレインサーキットを駆け巡って、とんでもない想像が目の前に映し出されたアイアンハイドはぶんぶんと盛大に頭を振ってそれを削除しようとする。しかし目の前では嬉しそうにキャッキャと戯れる二人の姿。見ればとサンドストームの泥はまだ完全に落ちてはおらず、洗いっことは名ばかりのじゃれあいに変わっていた。

「ど、泥が落ちてないぞ、お前たち!」
「じゃあアイアンハイド洗って!」
「なにぃ?!」
「だって三人の方が早いよね?サンドストームは私が洗うから、アイアンハイドは私を洗ってよォ」

 ピョンとサンドストームの足の間から抜け出して、はアイアンハイドにまとわり付いた。そして思いも寄らぬ力でぐいと引き寄せると、あわあわと体勢を崩した彼を引きずってサンドストームの足の間に納まった。アイアンハイドはサンドストームと向かい合う形で、見事な曲線を描くの体をアイセンサーいっぱいに映すことになった。

「!!!」
「ね、アイアンハイド。ちゃんと洗ってね」

 くいと首だけを後ろに向けて、はアイアンハイドに微笑みかけた。あまりに邪心のないその笑みに無理やり引き締めていた決意が崩れそうになる。魅力的なカーブが目の前で小さく動いて、サンドストームの体を洗っている。

「な、おい、、その、えと」
「アイアンハイド!」

 ちゃんと洗ってよ!とに責められ、サンドストームにニヤついた笑みを向けられ、アイアンハイドは逃げ場の無いもやもやしたモノをどうすることもできずに小さく呻いたのだった。