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両手いっぱいの花束をあなたに



「おや、どこへいくのですか」
 にこにことはにかみながら戸をくぐろうとした少女に孔明は声を掛けた。
 くるりと振り返った少女は手を花瓶に遣ってから、胸の前で小さく丸を描く。
  
 少女の名は
 小さな社でうずくまっている所を、神の使いだと騒ぎ立てた村人が彼の元へ届けに来た のが彼女との出会いだった。齢は十四、五。顔かたちは割合他より秀でているが、なぜだ か口がきけず、意思疎通の難しい娘である。そんなを孔明と妻の月英は口がきけるよ うになるまでとりあえず面倒を見ることにしたのだが、共に過ごすうちにこの無知な少女 に情が移り、実の娘のように可愛がっていた。

「花…?」
 は円を描いた手をそのまま頭に持っていき、かぶせるような姿勢をとった。
「…ああ、花を摘んで冠にするのだね」
 孔明が納得したように頷くと、は嬉しそうに微笑みながらぺこりとお辞儀をして戸 をくぐった。彼はその小さな背中に「いってらっしゃい」と投げかけると、振り返って手 を振る少女の姿が見えた。


 は花が好きだった。
 
 
 見つけられたときも花を摘んで遊んでいたし、保護されてからも花を見つけては摘み、 屋敷中を花で飾ることに終始していた。そんなを見て、月英は彼女に花で編む冠や首 飾りの作り方を教えてやった。月英の指からみるみるうちに作り出される花の装飾に は目を輝かせて喜び、作り方をすぐ覚えた。それからというもの、花を摘んできては練習 を重ね、周りが驚くほどの美しい飾りものを日夜産み出していた。

「やあ
 朗らかな声に誘われて目を遣ると、そこには優しげな男がひとり。がぱたぱたと駆 け寄って纏わり付くと、男――劉備――は背の低い彼女の頭をひと撫でして「今日も花を 摘みに来たのかい」と言った。

 彼もの保護に一役買った人間であった。神託を受けたと騒ぎ立てられていた彼女を 孔明に保護させ、見た目の割には物を知らぬ彼女を皆に紹介し、宮中で自由に行動させる よう取り計らったのである。

 が頸を縦に振ると、劉備はにっこり微笑んで庭に彼女を招待した。そこは様々な花 が咲き乱れる、宮中で最も美しい庭だった。散歩できるほどに広いそこはにとって格 好の遊び場であると共に、あらたな装飾品を作り出す創作の場でもあった。

「さあ、好きなだけ作っておくれ。満足いくものが出来たら、また見せてくれるかな」
 がこくこくと頷くと、劉備は相貌を崩して屋敷へと帰っていった。この娘が人に見 られながら作業することに慣れていないことを知っているのだった。


***


「孟起、を知らないか」
 練兵の相談に従弟の下に向かっていた馬超は、振り返って声の主を見た。そこには困っ たような笑顔を浮かべた趙雲がいた。
?」
 馬超はことばを発さない少女の顔を思い出し、頸を横に振った。
「そうか…」
「何か用でも?」
「うん?…いや、部屋にこんな物があってな」
 趙雲が取り出したものは、綺麗な円を描いた花のあつまり。色とりどりの花で編まれた それはあたたかい春の日差しと、彼女のはにかむ顔を思わせる。
「それを、が?」
「ああ。あの子、最近これに凝ってるらしくて…月英殿から聞いたのだが、上手く作れる とこうして人の部屋や机の上に黙って置いていくらしい」
 馬超は興味の無さそうな視線を花輪に向けると、趙雲の顔を見た。
「俺は見ていない」
「そうか、ありがとう」
 さして馬超を気にするわけでもなく、趙雲は彼とは逆方向にすたすた歩いていった。馬 超は面白く無さそうな顔でその背中を見ていたが、すぐにやめて、自分も歩き出した。

(花だと…?…そんなことは一言も…)
 彼は昨日会ったときのの様子を思い出してみた。昨日は彼が従弟と散歩に出ている ときにたまたま鉢合わせて、一方的な意思伝達を受け取っていただけだったが、口のきけ ない人間と意思疎通を行うということはなかなかに難しく、しかし面白みのあるものだと 彼は思っていたのだった。
 しかし、昨日の時点でそこから読み取れるものの中に花という単語は一度も出てきてい ない。輪っかを示す身振りも、冠を示す手振りも無かった。

(……)
 なんだか置いていかれてような気分になって、馬超は小石を蹴り上げると、足の回転を 速めた。



「岱、いるか」
「従兄上…どうぞ」
 扉を開くと、そこには花束と花冠を持った馬岱がいた。馬超は思わず仰け反りそうにな るのを堪えながら「どうした」と聞いた。
が持ってきてくれたんですよ。なんでも自分で作ったらしくって」
 頭に乗せられていたのだろうか、花びらの付いた髪を撫でながら馬岱はくすぐったそう に笑って答えた。花束は小さなもので、いかにも手作りといった雰囲気に溢れていた。
「従兄上は?」
 従弟の言わんとしている事が分ると、馬超はぶすっとした顔で「あいつを見ても無いし、 花も貰ってない」と言い放った。すると、馬岱はすこし驚いたような顔をしたあと、不機 嫌そうな従兄見て、くすくす笑った。
「何がおかしい」
「いえ…あまりにも不満そうでしたから」
 馬超はどきっとして顔を上げる。表には出すまいと思っていたものが、こうも簡単に見 破られるほどに露呈していたのか。
「な、」
は平等ですから…従兄上の机の上にもおいてあると思いますけど」
「俺は別に花が欲しいわけじゃない」
「じゃあ、なんでそんな顔するんです」
「そんな顔とはどんな顔だ」
「鏡を御覧なさい」
 ぐっと従兄が詰ると、馬岱はにやにやしながら「本題に入りましょうか」とすばやく話 を切り替えた。


***


 さんざんからかわれた馬超は、うんざりした顔で従兄の部屋を出た。辺りはもう暮れな ずみ、烏がけたたましい鳴き声を響かせていた。
(なにが花だ…)
 趙雲にしても馬岱にしても、花を貰ったぐらいでそんなに嬉しそうな顔をしなくてもい いではないか、と思ってしまう。いくらがくれたからといって…
(む……)
 が笑顔で花を渡してくれる図を想像して、馬超はしばし固まる。
 
 可愛い。
 
 まだあどけなさの残るあの姿で、言葉を発さぬ白い喉を少し震わせながら、花を差し出 してくる姿はどうだ。あれを見て可愛いと思わないような鬼畜はいるのだろうか。そう思 うと、羨ましさと、苛立たしさと、寂しさがこみ上げてきて、がっくり肩を落とす。

(俺は…なにか悪いことでもしたか…)
 はあ、とため息を吐いて地面を見ると、小さな花びらがいくつも散らばっているのが見 えた。
「?」
 辺りを見回すと、少し先に小さな背中。両手に一杯の花を抱えて、よたよたと歩いてい る。その姿の危なっかしい事といったら。
「…おい、!」
 馬超は先ほどのことを考えもせずに、反射的に声を掛けた。小さな体がこちらを向くと 両手に抱えている花のことなど忘れたかのように手を振る。沢山の花冠が地面と接吻した。
「…ばか…」
 顔に手を遣って息を吐くと、馬超はあたふたしているに駆け寄り、花冠を拾った。 幸いどれも形を崩してはいなかった。
「全く…どんくさいな、おまえは」
 頭をがしがしと撫でると、はきょとんとした顔で頸をかしげた。
「これは、誰かにやるのか」
 馬超が問うと、は嬉しそうに頷いてひとつひとつを指差しながら、何事か伝えよう としていた。
「それは……ん?…ながい…顎…?」
 一つ目の花冠を指差し、顎の下に手を遣って、長く伸ばす仕草をするとは馬超の瞳 を見た。対する彼は顎の下に長いものを想像して「雲長殿」と漏らした。それを聞いた賽 飛は頸を縦に振って笑う。
「そっちは?」
 今度は自分の髪を後ろにひとつで束ねる仕草をする。髪を一つにまとめているのは趙雲 は姜維だが、趙雲は先ほど花を持っていたので、おそらく姜維であろう。
「伯約?」
 は続けてものまねをする。姜維は合っていたのだろう。
「漢升殿」
「文長殿」
「翼徳殿」
「士元殿」
 のものまねに付き合っていると、馬超はそこに自分の名と彼女の保護者が入ってい ないことに気づいて言葉を止めた。はにこにこしているが、その事実に気づいては居 ないようだ。

「……なに?…いまから行くのか」
 が馬超の腕を引いて足を速めると、彼は驚いて空を彼女を交互に見た。もう夕暮れ である。自分は問題ないが、彼女の帰りが遅くなると、孔明が何を言い出すか分らない。 自分が隣にいながらの失態とあれば二人揃って説教になるのは目に見えている。
「もう暗いから明日にしろ」
 は頸を横に振って嫌がった。馬超はそれでも進もうとする彼女の腕を逆に掴み、屋 敷の方へ帰ろうとした。するとは花を投げ捨て、驚く馬超をよそに走り出してしまっ た。
「あ、こら…!…待てっ」
 長い着物を靡かせた少女の足が速いわけがない。馬超はすぐに追いつくと、再び腕を掴 んで、かける言葉を探した。
 を見れば、顔をくしゃくしゃにして今にも泣きそうな様子である。
「今から行けば、孔明殿も月英殿も心配する…明日でいいだろう?」
 ぶんぶんと頸を横に振って、は馬超を睨む。全然怖くはないのだが、彼女にそんな 顔を向けて欲しくはない。何がいけないのか、何が気に入らないのか、彼には全くわから なかった。

「とにかくあれを拾おう…折角きれいにできているのにもったいない」
 馬超が花を拾い始めると、しばらく睨んでいたも泣きそうな顔に戻って、花を拾い 始めた。


***


「あら…孟起殿も…どうしたのですか、それは」
 涙で顔を濡らしたと、右手にの手、左手に沢山の花冠をぶら下げた馬超を見て、 月英は声を上げた。月英を認めたは緩んできた涙腺を誤魔化すかのように彼女の腰に 抱きつき、ぎゅうぎゅうと締め付けた。
「あらあら…どうしたのかしら、この子は」
 馬超を見ると、ばつの悪そうな顔で花冠とを見ている。月英はを宥めて奥に向 かわせると、馬超を客間に呼んだ。



「そんな事があったのですね」
「ええ…が何を思っているのかさっぱり分らなくて」
 出された白湯に口を付けながら、馬超は卓袱に視線を落とした。

「…あの子が意固地になったのは…花が枯れてしまうからではないかしら」
「え?」
 予期せぬ答えに、馬超はぽかんとした表情で月英を見た。彼女は微笑みながら棚の上に 並べられた花冠に目を遣る。
「明日になったらすぐに枯れるという訳ではないですけれど、やはり美しさは作ったその 日が一番ですから」
 作ることに夢中になりすぎましたわね、と月英は笑った。馬超は嬉しそうなの顔を 思い出して、残念そうな顔をした。あれだけ大きなものだから、さぞかし時間が掛かった だろう。
「でも、孟起殿にはご迷惑をお掛けしてしまいましたわ」
 花冠から視線を戻し、月英は眉を下げて微笑む。
「とんでもない」
「あの子、言い出したら聞かないところがあって…ほんと、良人にそっくり」
 くすくすと笑う月英に、馬超は言葉も出ず固まった。その言葉に返事ができるほど、彼 は年も経験も足らなかった。


「あの花…」
「…どうしましょうね…明日届けろと言っても、またぐずるでしょうし」
 馬超と月英は花冠を見つめながらため息を吐いた。
「俺が、届けましょうか」
「いえ、甘やかしてはいけませんから…その気持ちだけで十分ですわ」
 やんわりと断る月英はまさに母の顔で、馬超がそれに適うはずも無く。
 再びため息を吐くと、どんどんと扉を叩く音がする。月英が「失礼」と言って席を外す と、馬超は主人が帰ってきたことを悟り、彼女の後を追った。扉の前には背の高い主が妻 と会話を交わしていた。
「おや、孟起殿ではありませんか」
をつれて帰ってきてくださったのですよ」
「それはどうも」
 馬超はこれ以上此処にいることは憚られたので、失礼しますと行って出て行こうとした。 しかし、それを月英が止めた。
「孔明様。のことで少しお話が」
「なんですか?」
「孟起殿、もう一度あのお話をしてくださらないかしら」
 馬超はなぜだか背中に伝う汗を感じながら、緊張で固まった体をゆっくり動かした。




「それはなんとも…」
 花冠の山を見つめながら、孔明は顎に手をやった。
「とにかく、このままでは枯れる一方ですから水につけてやりましょう」
 月英、と声をかけると、甕から平たい桶に水を汲み、花冠をするすると解きながら水に つけ始めた。
「では孟起殿。あなたには少しお手伝いを願いたいのですが」
「?」
 さっと身なりを整えようとした馬超に孔明は頸を横に振って言った。
「今からでは有りません。明日、集められるだけの人をあそこに呼んでから、ここに来て もらえますか?私もできるだけ声を掛けますが…」
「それはどういう…」
を迎えに来て欲しいのですよ。今日のことであの子が花遊びを嫌うようなことにな ってはいけませんから」
「今日作った分はどうしようも有りません。嫌がっているのに無理やり届けることは有り ませんし…まあ、新しいものをもう一度作ればいいだけのことです」
「はあ…」

 孔明はすっと立ち上がると、明日は早いので失礼と言って奥に引っ込んでしまった。早 く帰れと言うことらしい。馬超は腑に落ちないものを感じながら、が喜ぶなら何でも いいか、と投げやりな視線を孔明の背中に投げながら屋敷を出た。


***


、孟起殿がいらっしゃいましたよ」
 月英が声を掛けると、はまだほんのり赤い目を擦りながら出てきた。
「…」
 ばつの悪そうな顔を馬超に向け、は視線をそらした。彼はそんなをからかう訳 でもなく、普段通りの口調で花畑に行こうと誘った。
 の視線が月英に移る。月英は微笑んだまま頷くと、彼女の頭を撫でて馬超に「よろ しくお願いしますわ」と言った。

 馬超がの瞳を見ると、彼女はくすぐったそうに顔を背け、彼の手を握った。



 ずんずん進んでいく馬超に引きずられるようにして、はお気に入りの場所へと進ん だ。いつもならここに入るためには誰かに許しを得なければならなかったが、今日は示し 合わせたように皆が笑顔で二人を迎え入れ、あっという間に花園に到着した。
「?」
 がきょろきょろ辺りを見回す。そこは見た目こそ普段どおりだったが、向こうの方 からなにやらざわざわした声が聞こえるのだ。
「どうした?」
 馬超はわざとらしくならないよう気を配って言った。は前をすっと指差すと、もう 片方の手で耳を押さえた。
「何か聞こえるのか?」
 頷きながら、不思議そうな顔をこちらに向けてくるが可愛かった。馬超は本当に何 も気づいていないこの少女に、全て打ち明けてやりたいような気もしたが、彼女が腕を引 っ張って歩こうとしたのでやめた。

 少し歩くと、ざわざわは大きくなり、は馬超の腕を引く力を強くした。
「ん?あれはなんだろうな…?」
 わざとらしく声を上げると、は瞬きもせずそちらを見た。花とは違う甘い香りが、 風に乗って鼻孔を掠めた。
「…!」
 先にあるものを認めたは、驚いた顔で馬超の顔を見た。馬超はの頭を撫でなが ら微笑んで、逆に彼女の手を引いた。




「おお〜い、遅ぇぞ〜」
 有り合せの物を持ち寄って、そこではさながら宴会のような光景が繰り広げられていた。  張飛が二人を見つけて声を掛けると、関羽が手招きし、趙雲の隣に二人を座らせた。はまだ状況が読み込めていないらしく、きょろきょろと辺りを見回すことに終始した。
、これを持って来たのはきみだね?」
 趙雲が花冠を差し出しながら言うと、は恥ずかしそうに頷いた。彼がありがとうと 声を掛けると、耳まで真っ赤になって馬超の腕に頭を押し付けるようにした。馬超として はその反応はあまり面白いものではないが、彼女が縋ってくれるのが嬉しかったので忘れ ることにした。

「へえ!これ、が作ったのかい?」
「きれい」
 驚きながら会話に入ってきたのは、関平と星彩だった。ふたりは物珍しそうに趙雲の花 冠を見つめ、にすごいねと言った。はまた恥ずかしそうにしていたが、ふたりを 見つめながら、花冠を指差して彼らの頭に乗せるふりをした。
「?」
 関平と星彩が顔を見合わせると、は少し離れた所に花を摘みに行き、二人を手招き した。
「作ってくれるの?」
 ふたりがの元に行くと、馬超はそれを目で追った。しかし、自分に向けられている 視線が気になって顔を元に戻した。趙雲が笑っていた。
「…なんだ」
「いや…孟起は本当にが好きなんだなあと思って」
 馬超はびっくりして趙雲を見た。
「なにを言ってる」
「そのまんま」
「なに」
のことが気になって仕方がないんだろう?まあ、あの子危なっかしいからな」
 私もそうだが、と趙雲は明るく笑った。
「…」
 あながち間違いでもない指摘に、馬超は黙り込む。確かに彼女のことは気になるし、見 かけたらついつい構ってしまいたくなる。しかし、そこに男女の情があるとはこれっぽち も思っていないつもりである。
「お前の方が好かれてるんじゃないか」
 馬超は先ほどのの慌てぶりを見て、趙雲に言った。あれだけ顔を赤らめたなら、自分 に好意があると気づくはずだ。
 その言葉に趙雲は少し遅れて笑った。馬超は何事かと彼を軽く睨んだが、全く効き目は 無く、笑いながら返された。
「いや、悪い…あれは月英殿に聞いたのだが、あの子は私のことを兄のようなものだと思 っているらしくてな…私がのような妹なら歓迎だと言ったら、恥ずかしがってしまっ たのだ」
「な、」
「そういう訳だから、お前の恋敵になったりしないよ」
「こ、こい」
 馬超が金魚宜しく口をぱくぱくさせていると、遅れてやってきた姜維がその様子を見て 頸をかしげた。
「どうしたんですか」
「いや、孟起がを」
「子龍!」
「?」
 思わず叫んだ馬超を見て、姜維は疑問符を浮かべ、趙雲はくすくす笑う。馬超は居たた まれなくなって席を外そうとしたが、何処へ行ってもからかわれることは必至だったので、 立ち上がりそうになる足を押さえた。

「あ、
 姜維が声を漏らすと、二人は頸を後ろに向ける。そこには可愛らしい花の首飾りを下げ た関平と星彩が、の手を握りながら立っていた。
「作ってやったのか」
 馬超が相貌を崩して言うと、はそこらじゅうを指差した。
「三人で作って、皆さんにお配りしたんです」
 星彩が言うと、馬超は辺りを見回した。此処にいる姜維と自分以外は、全員なにかしら 花で出来た物を持っていた。
「そしてこれは伯約殿の分」
 関平が言って、が花冠を差し出す。姜維はにっこり笑って彼女の頭を撫でると、嬉 しそうに破顔した。
「最後は孟起殿の分」
 今度は星彩が言うと、は後ろに隠していた大きな花冠と、その間に詰められた沢山 の小さい花を差し出した。馬超はあまりのことに言葉が出ず、それを受け取ったままの格 好で固まった。
「?」
 が反応のない彼を見て不安そうな顔をする。もしかして、気に入らなかったのだろ うかと心配しているようだった。
「おい、孟起」
 趙雲が小突くと、はっと意識を取り戻して、「ありがとう」と言った。
 は彼が知っている限りの最高の笑顔で、花冠を持つ彼の手を握った。
 



素材:水珠