七.

「ところで、殿」
「なんだ」
「あの文目や手紙のこと、なぜご存知なんです」
「そこまで言うからには気づいているのだろう」
「殿の口から直接聞くほうが確かかと思いましてね」
 三成はにやにやしながら左近を見た。
「そんなに聞きたいか」
「ええ、是非」
「たいしたことではない」
 三成が言うには、左近の調子がどうもおかしいので調べさせると、寝言が怪しいというこ とになった。そこで、うわ言で言っていた女からの手紙と見せかけて文目を贈り、彼がどの くらい夢にやられているのかを調べたのだ。
「ようするに、文目は殿のしわざってことですね」
「そうだな」
「寺にもいやというほどありましたしね」
「分りやすいやつだ。文目など、先の季節ならば何処にでも咲いている」
「それのせいで俺は急に夢見が悪くなったんですよ」
「そんな事は知らん」
 ふんと面倒臭そうに話す三成に左近は腹が立ったが、もう一つ聞いておきたいことがあ った。
「あと、もう一つの方の手紙も殿ですか」
「俺が書いたわけではないがな」
「殿が差し向けたんですね!」
「刺客のように言うな。ただの手紙ではないか」
「俺がどれだけ焦ったか…」
「ふん。お前の寝言はなかなかの物だったぞ。の名前がはっきり聞こえたそうだ」
「あ、あなたって人は…」
「もう終わったことだ。それにはもうお前の妻だ。何も言う事はあるまい」
 を探すのには苦労したのだ、と三成は言った。左近はその点においては三成に感謝 すべきなのだろうが、どうもあの笑いが気に入らない。

「腹立ちますね」
「何がだ」
 臆面も無く言い放つ三成に、左近は言った。
「殿の笑い方がですよ!」




後記